Web3業界は「コンプライアンスの新時代」に向かっており、私たちが常に追求してきた「大規模採用」は方向が間違っているのでしょうか？

最近、業界内でイーサリアムに関する議論が非常に活発です。3時間にわたる「イーサリアムの現状」に関する討論会では、複数の業界専門家がイーサリアムとLayer2の関係、イデオロギー、組織構造などのさまざまな視点からイーサリアム及び全体の業界が現在直面している課題を分析しました。この討論を通じて、業界の現状について新たな考えを得ることができました。

私の見解は主流の意見とは異なるかもしれませんが、理性的で率直なコミュニケーションを通じてのみ、業界の健全な発展が促進されると考えています。したがって、私は自分の考えを共有することに決めました。これが、イーサリアムや業界全体の課題を考える新しい視点を提供できることを願っています。

過去一年、私はシンガポールのあるフィンテック会社の創業メンバーとして、複数の国の中央銀行とのトークン化およびクロスボーダー決済分野の共同プロジェクトに深く関与してきました。この経験は、私の視野を従来の金融機関にまで広げ、特に世界の中央銀行におけるブロックチェーン技術に関する戦略的動向に注目するようになりました。

Web3のコミュニティと従来の金融システムの発展の流れに同時に注目することで、これら二つの分野が明らかに分断状態にあることに気付きました。Web3の世界では、人々は技術的インフラがますます複雑になり、新しい概念が次々と登場することに不満を抱いていますが、ほとんどのプロジェクトは実際の価値を欠いています。一方、従来の金融分野では、大手機関や政府がブロックチェーン技術の応用を積極的に探求し、既存の金融システムの重要なアップグレードの機会と見なしています。

2024年、国際決済銀行（BIS）は「Finternet」（金融インターネット）という概念を提唱し、トークン化とブロックチェーン技術を未来の金融貨幣システムの新しいパラダイムとして位置付けました。この取り組みは伝統的な金融界に大きな反響を呼び、世界の金融機関や中央銀行がトークン化インフラ、資産のデジタル化、支払いアプリケーションなどの分野での探求を加速させることを促進しました。

国際決済銀行は2018年からWeb3技術のシステム研究を開始し、大量の専門研究論文を発表しました。そして2019年に革新センターを設立し、関連する実験プロジェクトを行っています。その中で最も代表的なのがmBridgeプロジェクトで、これはEVMに基づいた公共の許可されたチェーンであり、複数の国の中央銀行デジタル通貨（CBDC）が直接クロスボーダー決済を行うことをサポートしています。

もう一つの重要なプロジェクトはProject Agoraであり、これは7つの主要中央銀行と40以上のグローバルな金融大手を集め、ブロックチェーン技術とスマートコントラクトを利用してグローバルに統一された台帳システムを構築し、既存の金融通貨システムを最適化することを目指しています。これらの取り組みは、伝統的な金融勢力が観望からブロックチェーン技術を全面的に受け入れる方向に移行したことを示しています。

対照的に、Web3業界は大規模採用（Mass Adoption）を強調してきましたが、実際には投機や短期的な投機にもっと焦点を当てています。この対比は、私たちが本当に「大規模採用」とは何かを再定義する必要があるのかという深い考察を引き起こします。

過去数年のWeb3分野におけるいわゆるヒットプロジェクトを振り返ると、MEMEコイン、"P2E"ゲーム、SocialFiに関わらず、本質的には包装された投機ゲームに過ぎず、実際のユーザーのニーズを真に解決しているわけではありません。このような投機行為を"大規模採用"と見なすならば、その採用は実際には少数者に富が集中するゼロサムゲームであり、持続可能性に欠けています。

データによると、特定の投機プラットフォームでは、わずか数人のユーザーしかかなりの利益を得られない。さらに懸念すべきは、業界全体がハッカーや詐欺の温床となっていることである。FBIの報告によれば、2023年だけでアメリカの市民は暗号通貨分野で56億ドル以上の詐欺被害を受けている。

このような状況は私たちに考えさせます：私たちは間違った「大規模採用」の方向を追求しているのでしょうか？熱狂的な投機の雰囲気の中で、私たちは本当に持続可能な価値創造を無視しているのでしょうか？

支払いと金融は間違いなくWeb3技術の最も実用的な応用分野です。従来の金融勢力は、支払いシステムの革新、実物資産のトークン化（RWA）、DeFiと従来金融の融合、そして新興のPayFi概念など、さまざまな革新的な応用を大規模に探求しています。これらの探索は、現在の市場で最も切実な需要を明確に指し示しています。

イーサリアムや業界全体にとって、核心的な問題は技術的な方向性が正しいかどうかではなく、私たちが本当に価値のあるアプリケーションとは何かを理解しているかどうかです。もし私たちが技術革新に過度に焦点を当て、市場のニーズを無視したり、コンセプトの作成に熱中して実際のシーンから遠ざかっているのであれば、そのような発展の方向性は正しいのでしょうか？

より深い懸念は、もしこのまま進展するなら、従来の金融システムが逆にブロックチェーンの大規模採用を推進する主力軍となるのか？従来の金融勢力と政府主導の公共許可ブロックチェーンシステムが大多数の実際の応用シーンを支配し、公有ブロックチェーンがマイナーな「投機の楽園」として周縁化されることがあるのか？

これらの課題に直面して、私は業界の真の健康で持続可能な大規模採用の道について以下の考えを持っています：

1. 最優先の課題は実際の問題を解決することです：インフラストラクチャーであれ、アプリケーションであれ、現実のニーズに基づき、真の痛点を解決することに注力すべきです。

2. 使用のハードルを下げる：技術の究極の目標はユーザーにサービスを提供することであり、障害を作ることではありません。私たちは技術をより身近なものにする必要があります。

3. 持続的な価値を創造する：業界の健全な発展は、持続可能なビジネスモデルに基づかなければならず、投機的な取引に過度に依存してはいけません。

現在、Web3業界は初期の「未開の時代」から「コンプライアンスの新しい時代」へと徐々に移行しています。この変化は複数の側面で現れています：

1. 監督フレームワークがますます整備されている：複数の国や地域が関連する法律を導入または整備した。

2.伝統的な金融機関の標準化された参加:大規模な資産運用会社が暗号通貨ETFを立ち上げ、伝統的な銀行が暗号企業にサービスを提供し始めています。

3. インフラのコンプライアンス化アップグレード：取引所がコンプライアンスライセンスを申請し、KYC/AMLソリューションが広く適用される。

4. Web3プロジェクトのコンプライアンス化転換：複数の有名プロジェクトがコンプライアンスメカニズムを導入し始めています。

このトレンドの中で、私たちはより多くの伝統的な金融機関がWeb3領域に進出しているのを見ています。伝統的な金融勢力がETFを通じて暗号通貨の価格の発言権を握り、新世代のコンプライアンス化されたWeb3アプリケーションが急速に台頭しています。

ブロックチェーン技術の未来の主な戦場は、決済システムの革新、実物資産のトークン化（RWA）、PayFiの概念、およびDeFiと従来の金融（CeFi）の融合に焦点を当てることになります。これは、業界が実際のアプリケーションのレベルで突破を実現するためには、規制機関や従来の金融機関とのインタラクションに直面しなければならないことを意味します。

現実は、規制が常に業界生態系の頂点にあるということです。重大な業界の転換は、ほぼすべて規制政策と密接に関連しています。したがって、私たちは真剣に考える必要があります：規制を受け入れ、既存の金融システムとの共生の道を探るのか、それとも「分散化」の理念を守り、規制のグレーゾーンを彷徨い続けるのか。

イーサリアムエコシステムは現在、構造的な不均衡に直面しています。一方では、インフラストラクチャーと技術革新が絶えず積み重なっていますが、他方ではアプリケーションエコシステムの発展が相対的に遅れています。イーサリアムは、新興のパブリックチェーンからのパフォーマンスやユーザーエクスペリエンスに関する挑戦に対応する必要があり、同時に伝統的な金融勢力によるコンプライアンス公共許可チェーンの実際のアプリケーション市場における競争にも警戒しなければなりません。

このような多重圧力の中でどのように突破口を模索し、技術革新を維持しながら市場競争力を失わないかは、イーサリアムが発展を求める際に直面しなければならない重要な課題です。

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